ウクライナ・ロシアの原子力合意

No.0270 2014年1月12日

 こちらのニュースが、ウクライナ・ロシア両国間の原子力合意について伝えている。それによると、12月の両国の国家間委員会の席で、ロシアの諸銀行がウクライナに原子力産業発展のための資金60億ドルを融資することが合意された。それと同時に、既報のとおり、ロシアの国民福祉基金でウクライナの債券を150億ドル買い上げることも合意されている。60億ドルの融資という新たな情報に関しては、ウクライナ経済発展省のリリースの中で、対ロシアおよびCIS諸国との協力問題を担当しているV.ムンチヤンがこのほど明らかにした。ムンチヤンによると、委員会は両国政府に対し、2014年の投資額を増大させる緊急的な措置の採択を指示した。その一つが原子力分野であり、特にVVER(ロシア型加圧水型原子炉)-1000向けの核燃料をウクライナで生産する作業を継続すること、フメリニツィキー原発の3号炉、4号炉を建設することが想定されている。その上で、必要があれば、ロシアの諸銀行から約60億ドルを融資する旨で合意したという。原子力以外の電力部門全般も含めると、カニウ揚水発電所の建設、カホフ水力発電所の拡張、ドニストル揚水発電所の二期工事の完工、ノヴォコスチャンティニウカでのウラン採掘、タシリク揚水発電所の建設、南ウクライナ原発(写真)、ロシアの技術にもとづいた核燃料の生産など、多くのプロジェクトがある。ウクライナがロシアの技術を用いるのは、それが第4世代の素晴らしい技術であり、安全性に優れており、ウクライナで用いられているそれとも互換性が高いからであると、ムンチヤンは説明した。

ウクライナ首相、ロシアとの産業協力に意欲

No.0269 2014年1月10日

 こちらのニュースによると、ウクライナのM.アザロフ首相は1月9日の閣議の席で、ロシアとの産業協力のプログラムを全面的に、かつ早急に始動させなければならないと発言した。「迅速になすべきことは、第1に、早くも2月から、ロシアとの産業協力の強力なプログラムを、始動させることである。このプログラムは我が国に、向こう数年の間に、数十万の雇用をもたらし、全レベルの財政の歳入を保証し、ウクライナ国内市場発展の財源的基盤となる。さらに、我が国にとって死活的なCIS自由貿易圏が稼働するようになる。本件はYu.ボイコ副首相が担当することになる。これらのプログラムの規模は、数十億ドルか、あるいはそれ以上だ。これは我が国産業の基礎部門の未来である」と、首相は述べた。

2014年のウクライナ政治の大予想

No.0268 2014年1月9日

 ウクライナ『コレスポンデント』誌のこちらのサイトに、2014年のウクライナ政治の行方を占った記事が出ているので、それを抄訳して紹介する。

 2014年は選挙イヤーであり、ウクライナの政治・経済・社会で起きることのすべてが、何らかの形で選挙戦に絡んでくることになる。投票自体が行われるのは2015年3月になるが、主たる闘争の時期となるのはまさに2014年である。投票まで1年あまりになった現在でも、最終的な候補者の名前すら明らかになっていない。

 V.ヤヌコーヴィチが自らの地位保持をねらうことは疑いないが、その彼でさえ出馬の意向を明言しているわけではなく、支持率の動向を見極めるとしている。

 野党陣営では、話はさらに複雑である。打倒ヤヌコーヴィチの最右翼はUDAR党のV.クリチコで、大統領選出馬に意欲を見せているが、野党のパートナーであるバチキウシチナのA.ヤツェニューク、「自由」のO.チャフニボクからの支持が得られていない。P.ポロシェンコも政治活動を活発化させている。

 可能性は低いが、Yu.ティモシェンコが候補者に名を連ねる可能性も残っており、少なくともバチキウシチナでは欧州人権裁判所がそのような判決を下すことに期待している。ただ、候補者の顔触れには関係なく、2014年は厳しい年になろう。

 応用政治研究センターのP.フェセンコ所長は、「ウクライナは乱気流に突入した。2013年に始まった政治危機は、大統領選まで続くだろう。形は変えるかもしれないが」と予想している。

 そうした中で、第1の注目点は、現政権による国民向けの大盤振る舞いである。

 ロシアは、2015年大統領選でヤヌコーヴィチが勝つチャンスを拡大してあげた。ロシアからの多額のクレジットのお蔭で、ウクライナ政府は経済を安定化できただけでなく(M.アザロフ首相は、ロシアマネーがなければウクライナはデフォルトに直面していたかもしれないと述べている)、国民向けの社会保障を増額できた。政府は医者・教師・保育士・学者などの給料や、特待生向けの奨学金を引き上げるとしている。

 また、ソ連貯蓄銀行に預けられていた預金に対する補償措置も、再開が約束されており、予算に60億フリヴニャが計上された。大統領は政府に、電力料金を引き下げるという課題を提起している。「手頃な住宅」という国家プログラムに、5.4億フリヴニャが割り当てられることになっている。

 ただし、専門家によると、社会保障給付水準全般が引き上げられるわけではなく、あくまでも選挙戦をにらんだピンポイントの引き上げになるという。各種給付の基準となる最低生計費はわずか80フリヴニャ(6%)しか引き上げられず、最低賃金も80~85フリヴニャ、年金も最大で80フリヴニャの引き上げに留まる。

 第2の注目点は、野党による共闘の成否である。

 ウクライナ野党のリーダーたちに突き付けられている最大の問題は、大統領選の第1回投票の段階から統一候補で戦うのか、それとも最初はそれぞれ単独で戦うのかということである。現在のところ、統一候補擁立の用意を示しているのは、V.クリチコだけである。その際に、クリチコ本人は自分こそが野党統一候補になるべきだと考えており、すでに10月に出馬の意向を示している。

 クリチコに一定の勝ち目があることは事実であり、国民の支持率はV.ヤヌコーヴィチ現大統領とクリチコでほぼ同じである。しかもクリチコにはヨーロッパに「プロモーター」もいる。『シュピーゲル』誌によれば、ドイツのA.メルケル首相はクリチコに賭けたということである。クリチコは欧米の有力政治家と頻繁に面談しており、彼のUDAR党は最近「欧州人民党」に迎え入れられた。クリチコは欧州人民党の会合に招待される予定で、それにはメルケル首相も出席することになる。

 しかし、野党のパートナーたちからの支持が得られなければ、クリチコがヤヌコーヴィチに勝つのは難しい。A.ヤツェニュークやO.チャフニボクは今のところ自らの野心を犠牲にするつもりはなく、第1回投票の段階から統一候補を出すことに関する議論にも難色を示している。

 野党陣営でクリチコを脅かしうるのは、P.ポロシェンコである。ポロシェンコは今回のユーロマイダンに際して影響力を大幅に拡大したし、ヨーロッパでの知名度も高く、ウクライナ東部や南部の有権者の支持も獲得しうる。問題は、今のところ国民からの支持率において、クリチコに大きく劣っていることである。

 専門家たちは、野党統一候補の可能性について、やや疑問視している。応用政治研究センターのP.フェセンコ所長は、「今のところ野党政治家たちは、統一候補を立てる準備ができていない。ただ、彼らが党派を超えた広範な『全ウクライナ社会運動マイダン』を結成したことから見て、危機の局面では独力では生き残れないということを、彼らも分かってはいるのだろう」とコメントしている。元大統領官房長のO.ルィバチュークは、「結局、エゴイズムが勝ってしまうかもしれない。それが大きな誤りであってもだ。野党が決選投票の前に大同団結するというシナリオは、実現しないかもしれない」と、悲観的な見方を示す。

 第3の注目点は、2004年憲法への回帰論である。ウクライナの現行憲法は、1996年に採択されたものだが、オレンジ革命直後の2004年に議会・内閣の権限を強める方向で修正されたものの、2010年10月の憲法裁判決でそれが無効とされ、大統領権限の強いオリジナルの1996年憲法が復活したという経緯がある。

 野党陣営のA.ヤツェニューク、V.クリチコはすでに、2004年修正憲法への復帰を唱えている。O.チャフニボクはまだ立場を明確にしていない。最高会議はすでに第一歩を踏み出しており、最近地域党を離脱したD.ジヴァニヤ率いる国家建設・地方自治問題委員会が議員たちに、2004年修正憲法に復帰する旨の法令を採択することを勧告している。

 本件は、野党陣営にとっては、好都合である。応用政治研究センターのV.フェセンコ所長は、「議院・大統領制への回帰は、2004年の時と同じように、政治危機からの突破口と見なすことが可能である。他方、これにより、野党のリーダーたちが団結し、大統領選に統一候補を擁立することが促される。大統領の権限が削減され、権力を少なくとも3つに分けることが可能になるからだ」と解説する。

 最高会議ではすでに、2010年10月の憲法裁判決の取り消しを求める署名集めが始まっており、バチキウシチナによれば、すでに100以上の署名が集まったという。「状況モデル化エージェンシー」のV.バラ所長は、政権寄りの諸会派が2004年修正憲法への復帰を支持することになる可能性もあるという。「議会は技能を失っており、議会主義の復活という議論は議員たちに、特に小選挙区選出の議員たちに、魅力的なものと映る可能性がある。一部の共産党議員や地域党議員が賛成に回るかもしれない」ということである。

 だが、現在のところ与党地域党は本件の可能性をきっぱりと否定している。また、どんな法的形態でそれを実現するのかという難しさもある。

 第4の注目点は、「マイダン」(首都キエフ中心の広場を中心に反政府派の国民が繰り広げている抗議運動のこと)の顛末である。キエフでは若干沈静化したとはいえ、「ユーロマイダン」はまだ撤収の動きを見せていない。大統領選が近付くにつれ、ウクライナが全面的に「抗議国家」と化す可能性もある。「野戦司令官」の一人である最高会議議員のA.パルビーは、「政権が我々の要求を容れ、大統領と政府が辞任し、連合協定への調印がなされない限り、誰も解散には応じない」と述べている。政治評論家のO.ハラニは、もし仮に誰か政治家が「そろそろ解散しよう」と言い出しても、人々はそれを望まないだろう、と予想する。別の評論家のT.ベレゾヴェツは、「人々が、現政権の行動が誤っていると判断すれば、ユーロマイダンはいつ何時にでも発生する。マイダンがどういう結末になるかは別として、人々を動員する手法自体は、来たる選挙戦に活かされることになるだろう。野党陣営は、選挙結果を守るため、あるいは政権に圧力を行使するため、その手法をずっと使い続けるだろう」と述べる。すでに現在、野党側は、ウクライナのすべての都市に抗議テントを設営するとしており、いざという時にそれが抗議運動の発火点になる可能性がある。前出のフェセンコは、キエフ中心部で起きたことはリハーサルにすぎず、2014年は錯綜した年になり、政治対立が深刻化する恐れがあるとしている。

 最後に、第5の注目点は、ウクライナ分裂の危険性である。国家安全保障・防衛評議会のA.クリュエフ書記は、安定化に成功しなければ、ウクライナは2つどころか、3つに分裂する危険性があると警鐘を鳴らしている。実際、ユーロマイダンに対する国民の世論も、(3つではないが)真っ二つに割れている。ただし、専門家の間では、ウクライナはもともと東西住民の価値観が異なっていたのだとして、現状をあまり大袈裟に騒ぎ立てる必要はないという意見が強い。ウクライナの政治、経済エリートはともに、国の一体性を堅持したいと思っている。しかし、2004年の時と同様、そうした言説が飛び交う可能性はある。大統領選挙によっても、現在の政治対立が解決されなかったら、選挙後に分離主義的な立場が台頭してくることが考えられるが、それはおそらく理念的なものに留まるだろうと予想される。

EU・ウクライナの自由貿易協定で関税率はどう変わるか

No.0267 2014年1月5日

 やや古い情報だが、こちらの記事で、EUとウクライナが自由貿易協定を結んだ場合に、相互の関税率がどう変わるのかが整理されている。

 これによると、自由貿易協定締結後、EU側はただちに、ウクライナ産品に対する関税の97%を撤廃することになる。ウクライナ側は、欧州基準に適応するための移行期間を設け、関税撤廃を1~10年かけて(自動車は15年)進めていくことになる。関税撤廃による恩恵はウクライナ側の方が大きく、現状でEUがウクライナ産品に課している関税は、現状で7.6%であるのに対し、協定調印後の初年度はそれが0.5%に引き下げられる。一方、ウクライナ側は2.4%へと引き下げることとなる。10年後には、EU側が課す関税率が0.05%、ウクライナ側は0.3%となる。

 産業部門別に見ると、以下のように関税率が変化する。

2013年のウクライナ鉄鋼業の生産実績

No.0266 2014年1月5日

 ウクライナの業界団体「メタルルフプロム」が発表したところによると、2013年のウクライナの粗鋼生産量は3,268.4万t(前年比0.9%増)、鋼材は2,903.8万t(前年比0.3%増)、銑鉄は2,911.1万t(2.1%増)だった。鋼管は大幅に縮小して161.5万t(前年比19.9%減)、コークスは1,759.0万t(7.1%減)だった。